ケインズの影響のもとで成立した戦後世界通貨制度、管理通貨制度(基軸通貨ドル・金の兌換制)は貿易制度でもあり、大戦で壊滅、疲弊した欧州や日本を貿易制度に組み込み、各国の資本主義を復興させた。しかし、米の長年にわたる膨大な財政赤字(とくに戦争、軍需支出)によって基軸通貨ドル・金の兌換制は破綻した。しかし、基軸通貨ドル・金の兌換制が破綻しても、本来、商取引とは労働価値の交換であり、復興した資本主義間での労働価値の交換、貿易は、為替相場が形成される限り、そして各国が外貨準備として米財務証券を支えていれば貿易にも支障がなかった。しかし、それは通貨論からいえば新たな歴史的段階であった。
ドル・金の兌換停止によってドルは、制限無しに紙幣を大量発行できるようになり、米の金融支配が広がった。
近年、ドルの垂れ流しに依存する世界経済の停滞の中、世界の各地で恐慌や金融危機が起こった。それとともに進行していた利潤率低下と天文学的な紙幣の発行によって、紙幣利子率の低下が進行した。天文学的な紙幣は、債券需要を空前の規模で呼び起こした。それは必然である。
世界一貧富の拡大がひどいアメリカでは、利潤率の低下によって、金融と経済が破綻しつつあった。そこで金融工学とかいうものによって、支払い能力のない貧民を対象とした住宅ローン債権の証券化という究極の商法が生まれ、世界の行き場のない流動性は、その証券に化けた。2007年、リーマン・ショックという前代未聞の金融危機は、その救済のためにドルを垂れ流し、5年間で4倍の流動性という結果をもたらした。そして現在、米、EU、日本はゼロ金利まで進んでいる。このような現状は、資本の増殖率が限りなく低下している結果、引き起こされたものである。
ゼロ金利は、利潤率傾向的低下と利潤量増大との相補性の破れの進行の結果であり、その相補性の破れは、超過利潤獲得競争の激化と世界経済の無秩序化、分裂とブロック化の進行を促す。
フリードリッヒ・フォン・ハイエックは、インフレーションの正当化と仕組まれたインフレーションに反対した。ハイエックは粗悪な通貨が他の通貨によって直ちに排除されることのために、貨幣発行独占権の廃止と銀行業務の自由と発券業務の自由化を提起した。
貨幣発行独占権が経済変動を拡大し財政の膨張を促し、金利ゼロ近傍の世界(紙幣の無制限の印刷)まで行き着いた。
貨幣の度量標準の変更のポテンシャルは、極限まで進められている。
米財務証券の中国、日本の大量所有によって、ドルが支えられ、ドルの垂れ流しとそれに依存する諸国家群の相互依存の世界は、もし大国間の政治諸関係が大きく激変すれば、現在の不兌換通貨制度も激動せざるをえない。仮にドルに代わり世界貨幣商品・金で貿易決済しなければならないとしたら、金の偏在による突然の危機が世界を襲うであろう。
そこでは
①失敗した基軸通貨ドル・金の兌換制の世界通貨ドル制度のような擬似兌換は修正復活するのだろうか。それは、世界貨幣商品・金の偏在による突然の危機をもたらし、現在の信用制度をリセットするので、商品世界は同意しないであろう。
②それならば、SDRで紙幣間相対的安定が保証されるのだろうか。あるいは通貨ブロック化に進むのだろうか。
③一番厭うべき可能性としての政治対立とそれに続く戦争によるリセットの可能性はあるのだろうか。
人々は不兌換紙幣乱発で、得をし、富を蓄積する者と、資産を失い野垂れ死にする者に分かれている。世界の庶民にとっての一番困難な問題は、自ら保有している通貨の価値の保存であり、低下する購買能力である。
事実が証明しているように、生産と経済が国家や経済共同体によって組織(法律化)されていれば、不兌換紙幣のみで経済は動く。金は貨幣としてではなく、一商品としてのみ存在する
しかし、IT技術の発展と財政の膨張による経済の変動は、今やビットコインという仮想流通手段を生み出すにいたった。
金は一商品であり価値がある。そもそも金預証としての銀行券が、中央銀行券、国家紙幣として国家によって独占されたものであり、資本主義の発展は紙幣の国家独占によって支えられてきた。
0近傍金利世界(紙幣の無限印刷の世界)でも、通貨発行権は政府にとっての主要な収入源であるために、貨幣発行の独占権を廃止することは、権力のない庶民にはできない。
したがって、紙幣が金と関係づけることも出来ない以上、同様にビットコインには発行限度があるといってもその裏づけは、現在では各国の紙幣との交換によらなければならない。しかも、紙幣と仮想通貨・ビットコインとの相対関係でビットコインが投機の対象となる。しかしながら、紙幣(プリント)もビットコイン(技術的産物と統計学的保証による記帳)も貨幣商品そのものではない。
労働価値説に基づけは、経済の根本である商品交換は労働の交換である。貨幣商品・金がもつ機能のそれは、技術の発展とともに記帳で代位される。
コンピューター計算記帳を裏書するビットコイン。
生産と経済が国家や経済共同体によって組織されていれば、国家や経済共同体内の、コンピューター計算記帳のみで経済は動く。ビットコインの世界では公開の取引簿に全ての取引を記録するという。コンピューターの完全性が保証されるなら、経済計算で経済システムは機能する。
コンピューター計算記帳・ビットコインが貨幣の退蔵という機能として受け入れられるならば、貨幣機能のすべてをもつことになる。
経済計算のみでやれるということは労働価値説による。一商品の金無しでも経済は運営できるからである。潜在的な世界貨幣金は、通貨為替制度のもとでは特殊な1商品にほかならない。
コンピューターの完全性があろうが、なかろうが、また国家が潰しにこようが、投機によって価値が減価しようと、人々は防衛のためにビットコインの類は生まれ、利用されるであろう。
紙幣は国家信用の裏面であり、ビットコインも貨幣商品の裏づけがない限り、紙幣との交換可能性の存在証明(アリバイ)が必要である。紙幣もビットコインも信用の世界であり、一方は国家信用であり、他方は紙幣の裏づけがない場合は、任意の信用の世界である。任意の信用の世界では各種のビットコインが飛び交うことになろう。
しかし、退蔵という機能は所有権と権能が必要不可欠である。ビットコインも退蔵の所有権を保証するものが必要である。公開性という信用以外に所有権は国家権力が結局は保証する。国家に関係なく価値を持つのは金である。したがって、ビットコインの富の蓄蔵形態は仮想所有権である。 (2015年4月16日記)
Ⅰ.金の「預かり証」からそれが銀行券となり、そして国家の法定通貨となった。そして現在では金との兌換性のない国家信用となった。
国家、それは税金を徴収し、紙幣を発行し、通貨発行益(シニョリッジ)による「擬制資本を形成」し、国家収入を配分する。国家は、権利を保障すると言われているが、財産権の保証は根本機能である。
Ⅱ.インターネット上のブロックチェーンによる準完全信用の性質をもつ仮想通貨の登場は驚きであった。それは「暗号的ハッシュ関数」(衝突耐性、秘匿性、パズル親和性を属性とする)を数学的基礎とし、数学的、技術的に、統計的信用と仕組みをもち、透明性、非中央集権などを実現している。しかし、現状では法定通貨と仮想通貨(取引記録=労働価値の交換記録の存在)との交換によって、仮想通貨は法定通貨の預かり証である。
インターネット上の準完全信用である仮想通貨は、インターネットと技術的準完全信用(統計学的保証)ゆえに擬似的世界貨幣(本質は通貨)となりえる可能性を秘めている。しかし、法定通貨の預かり証の道をへなければ、擬似的世界通貨への転化の可能性の道は開かない。
法定通貨としての紙幣は、国家の恣意によってプリントされる。したがって、法定通貨の預かり証であった仮想通貨は、法定通貨と「為替」変動を繰り返すし、仮想通貨自身の需要供給とともに変動する。したがってそれは投機の対象でもある。取引所間の価格差を利用して裁定取引も可能である。したがって、時間差ある契約や貿易の「支払いの良好な基準」(マーシャル)には現状ではなりえない。
仮想通貨は、法定通貨といわば為替相場的な交換関係となり、そのようなものとして仮想通貨と紙幣とは同値関係をもっている。
(注)衝突耐性、χとyという異なるものに対して、ハッシュ関数H(χ)=H(y)という衝突が確率的に限りなく低いという統計的保証。
Ⅲ.現状では仮想通貨は、一般的等価形態ではなく、特殊的等価形態である。仮想通貨の価格を決めるのは、仮想通貨への需給(交換過程における人々の志向と試行)とともに法定通貨の変動である。
各国通貨危機や政情不安、戦争に対して、インターネット上のブロックチェーンによって「恣意によらない信用」が確保されておれば、それはいわば疑似世界通貨となり、各国通貨が大変動によって破綻したとき、仮想通貨は特殊的等価形態から擬似的一般的等価物として飛躍的に反転する可能性をもっている。つまり労働価値の交換を保証する。
Ⅳ.仮想通貨が国家の恣意的な政策に従属せず、独立性を保つならば、それは本質的に国家通貨、法定通貨と根本的な対立を持っている。
しかし、あらゆる権利が国家によって保証されるように、財産権も国家によって保障される。したがって国家はさまざまな規制と干渉をくわえることができる。しかも、突然、国家の強制によって仮想通貨が使えなくなる可能性もある。仮想通貨の擁護者は国家権力の権能を過小評価しがちなのだろうか。
しかしながらだ、国家も経済的原理の進行やデフォルトなどの必然性には勝てない。
Ⅴ.世界決済通貨は現在ではドルである。交換過程は人の意思が介在するものである。どのような通貨を選ぶかは世界情勢の変化に依存して人々をして通貨の選択をさせる。仮想通貨と法定通貨との同値性が破れたとき、例えば国が動乱、戦争、通貨大暴落、デフォルトや大きな為替変動による法定通貨の破綻など。仮想通貨は現状の特殊的等価形態から、擬似的一般的等価物として仮想通貨は転化する局所的可能性がある。それが大域的ならばそのとき世界的な価値表章として機能する。
しかし、技術的、統計学的保証が突破されない限り、またコンピューターやインターネットが破壊されない限りのことである。
(2018年8月22日追加)