資本主義の発展期には、設備の拡大と更新につれて、利潤率が上昇し、したがって利潤量が増大する。費用価格の増大とともにあった利潤率上昇と利潤量増大の対関係(発展前期)から、次に次第に利潤率の低下の時代に進む。しかし、ある段階までは、利潤率の低下には拡大投資によって利潤量の増大が伴う。設備投資の拡大(生産能力の拡大)につれて利潤率が低下するといえども利潤量は増大する(発展後期)。 次の段階では、利潤率の低下と利潤量増大とのその対関係という相補関係(あるいは関係対称性)が必ず破れる。つまり、単なる利潤率の傾向的低下の段階から、「利潤率の低下と利潤量の増大との相補関係の破れ」の段階に移行する。現在の段階は、「利潤率の低下と利潤量の増大との相補関係の破れ」の段階に移行したというのが本質である。一国内的には利潤率の集団的平均は、長期間的平均では一貫的に低下してきた。これらの諸段階が資本主義の発展段階とそれぞれの経済的特徴である。
利潤率の歴史的低下によって、利潤率低下に反対作用としてさまざまな資本行為がとられる。労賃の引き下げ、半失業、非正規等の低賃金状態と婦人労働力の拡大、移民による可変資本部分の縮小=利潤率の抵抗的維持(縮小に抵抗)がはかられる。しかし、それよりも特徴的なことは、国内的に利潤量が過少にしか得られないところから、超低賃金国への生産投資の移動である。グローバル化である。低賃金諸国からの超過利潤、また特許料などによる超過利潤獲得によって巨大な対外所得がうまれ、本国での空洞化と経済格差が膨大なものになる。それがグローバル化である。(ダストベルトが存在するアメリカの経済格差の超拡大、日本などのシャッター通りが悲惨な姿をさらしている)。また「利潤率の低下と利潤量の増大との相補関係の破れ」の段階での「利潤率低下にたいする反対作用」が徹底的にやられた日本では、この間賃金率の減少がもっとも激しかった国である。
グローバル化による矛盾(貧富のかつてない巨大拡大)が先進資本主義国で激化している。アメリカのみならず、フランス、イタリア、ギリシャ等でもそうである。国内的利潤率の低下は、金利ゼロの世界となり、潤っている企業群の利潤率、利潤量とゼロ金利の差によって株価が急上昇してきた。国内矛盾の極度の激化は、国々の対立に転化し、いよいよ世界は分裂状況に直面しょうとしている。それらはすべて利潤率の傾向的低下に反対作用した国家的資本行為の結果である。
「利潤率の低下と利潤量の増大との相補関係の破れ」の現在の段階の経済的諸矛盾を理論的に明示しようとするのが本書である。そのような諸関係の当面の問題として紙幣発行量の無規定的無限増量と物価の問題を最初に提示した。(前貸資本)G―(生産物)W―(増殖された)資本G`(=G+g)とすると、G―Wの間に生産productとがあり、W―G`の間には販売sellがある。(前貸資本)Gは特定の利潤率Rによって(増殖された)資本G`(=G+g)に変化する。この関係から貨幣供給・増発量Mと利潤率Rとの相互作用RMを想定し物価Pは関数FによってF(RM)→PからP=F(RM)とおき、いわば「R-M」空間を設定し論じた。利潤率低下の時代、一国的にも国際的にも先進諸国は、利潤率が均一的に低下する。資本の増殖率の起爆力は低下している。そこからのブレイクスルーは、イノベーション、更なる技術の発明と革新である。対外的な超過利潤(安価な労働力過剰国への資本投下)による本国での空洞化(ダストベルトの存在)とともにITという新しい社会的分業の発祥地であり、この新しい社会的分業が世界的趨勢になるにつれ、アメリカのIT巨大グローバル企業の企業収益は世界を凌駕している。その技術寡占化によってIT巨大企業の台頭とともにGDPも日本などと違って伸びてきた。利潤率低下の時代の次なる技術の発展をめぐって対立と競争が激化している。
(注)人間の経済意志行為の結果は、人間の意志から離れて、独自の法則を形成し、歴史を形成する。日本では、利潤率上昇と利潤量増大との相補性(資本主義の発展段階)は1975年頃破れた(特に賃上げ率の変移からみて)。次の利潤率低下と利潤量増大との相補性は1990年頃破れた(特に賃上げ率の変移からみて)。相転移である。それら2段階にはともにケインズ政策(税金)が補完政策ともなっていたので、ケインズ政策の終焉でもあった。
そして、利潤率低下と利潤量減少との関係に変移した。この変移の時代、利潤率低下と利潤量増大との相補性破れに対応する反作用状態(利潤率低下に抗する労賃切り下げ、費用価格の削減、海外移転、婦人労働力の拡大、老人雇用の増大、移民労働力の導入等々)も同時に生じる。それは国家債務の上昇とともに養育環境の低下であるから、少子化である。それは生産の海外移転と国内空洞化のグローバル時代への移行でもあった。